毎日の仕訳入力や月次決算業務に追われる中で、「もっと会社の将来に関わる仕事がしたい」「経営に近いところで働きたい」と感じている経理職の方は少なくありません。同じ数字を扱う職種でありながら、財務職への憧れや興味を抱く一方で、「どうやったら財務の仕事に就けるのか」「今の経理経験の延長線上に財務のキャリアがあるのか」という不安を感じていませんか。
本記事では、経理から財務へのキャリアチェンジを実現するための具体的な方法と準備ステップを詳しく解説します。
経理と財務の違いを理解する
項目 | 経理 | 財務 |
基本的な役割 | 過去の取引を記録・管理・報告する「守り」の業務 | 未来に向けた資金調達・投資判断を行う「攻め」の業務 |
主な業務内容 | 日々の仕訳処理・月次・年次決算・税務申告・経費精算 | 資金繰り管理・設備投資の採算性分析・M&Aの財務デューデリジェンス・銀行との融資交渉 |
重視されるスキル | 正確性・継続性・会計基準の理解 | 分析力・判断力・経営陣とのコミュニケーション能力 |
キャリアの発展性 | 専門性を深める縦の成長が中心 | 経営企画や事業企画など横の展開も可能 |
経営への関わり方 | 結果の報告が中心 | 戦略立案への参画 |
経理から財務への3つのキャリアパス
経理から財務への転身には、主に3つのルートが存在します。
1.社内異動パターン
現在の会社内で財務部門への異動を目指す方法です。経理部門での実績と信頼があることで、比較的スムーズな移行が期待できます。
ただし、会社に財務部門が存在しない、もしくは異動の機会が限られている場合は難しいルートとなります。
2.転職パターン
他社への転職を通じて財務職を目指す方法です。このパターンには2つのアプローチがあります。
まず、経理財務兼務ポジションへの転職です。特に中小企業では、経理と財務の両方を担当する求人が多く存在します。経理経験者にとっては採用されやすく、入社後に徐々に財務業務の関与を広げていくことで、実質的な財務職への移行が可能です。求人数も比較的多く、現実的な選択肢となります。
一方、純粋な財務ポジションへの直接転職は、より多くの選択肢から最適な職場を選べる反面、求人数が限られており、財務経験がない状態での転職活動は難易度が高くなります。大企業や上場企業の財務部門では、即戦力を求める傾向が強いため、相応の準備と戦略が必要です。
3.段階的アプローチ
段階的アプローチは、経理→経営企画→財務というステップを踏む方法です。
経営企画で予算管理や事業計画策定の経験を積むことで、財務職への橋渡しとなります。時間はかかりますが、着実にスキルを積み上げられる現実的なルートです。
財務職に必要なスキル・知識を身につける
財務職への転身を成功させるには、特定のスキルと知識の習得が不可欠です。
必須スキル
スキル名 | 内容 | 重要な理由 |
財務分析能力 | 貸借対照表や損益計算書から企業の財務状況を読み取り、改善点を見つける力 | 経営陣への提案や投資判断の基礎となる |
資金繰り管理 | キャッシュフローを予測し、適切な資金調達のタイミングを判断する能力 | 企業の資金ショートを防ぎ、安定経営を支える |
投資評価 | NPVやIRRといった指標を用いて投資案件の妥当性を検証する能力 | 設備投資やM&Aの意思決定に直結する |
推奨資格
資格名 | 対象レベル | 財務職での活用方法 |
日商簿記2級 | 基礎 | 財務諸表の理解に必要な会計基礎知識 |
FASS(経理・財務スキル検定) | 初級〜中級 | 財務諸表の理解に必要な会計基礎知識 |
中小企業診断士 | 中級〜上級 | 経営全般の知識、財務戦略立案への活用 |
FP2級・1級 | 中級〜上級 | 資金計画や投資判断に直結する実用知識 |
重要なソフトスキル
スキル名 | 必要な理由 | 具体的な活用場面 |
経営陣とのコミュニケーション能力 | 複雑な財務情報を分かりやすく説明する必要がある | 資金調達や投資判断の提案時 |
戦略的思考力 | 数字の背景にある事業環境の変化を読み取る必要がある | 中長期的な財務計画の策定時 |
キャリアチェンジ成功のための実践ポイント
経理から財務への転身を成功させるには、いくつかの重要なポイントがあります。
成功パターンの特徴
成功パターンの特徴として、経理業務で培った数値感覚を財務分析に活かす姿勢が挙げられます。月次決算で身につけた期間管理能力を資金繰り業務に応用し、経営陣への報告経験を財務企画での提案力に発展させることができれば、スムーズな移行が期待できます。
よくある失敗パターン
失敗パターンで最も多いのは「経理の延長として財務を捉える」思考の落とし穴です。財務は単なる経理の上位職種ではなく、戦略的な判断を伴う全く異なる職種であることを理解しましょう。
また、スキル不足のまま転職活動を始めるリスクや、財務職の業務範囲を狭く捉えすぎる認識ミスも避けるべきです。
年代・経験別の戦略
また、年代・経験別の戦略も重要です。20代後半では、まだキャリアの方向転換がしやすい時期のため、資格取得に時間をかけながら社内異動や経理財務兼務ポジションへの転職を狙うアプローチが効果的です。30代前半では、経理でのマネジメント経験や業務改善実績を強みとして、中小企業の経理財務兼務ポジションでの実務経験積み上げを目指しましょう。
30代後半以降では転職難易度が最も高くなるため、同じ業界内での転職や、現職での財務関連業務への関与拡大など、リスクを抑えた現実的なアプローチを検討することが重要です。
面接・選考でのポイント
面接・選考では、経理経験をいかに財務職への強みに変換するかが鍵となります。
「正確な数値管理能力」「決算プロセスの深い理解」「会計基準への精通」などを、財務分析や資金管理への応用可能性として表現します。志望動機では「より経営に近い仕事がしたい」という表現は避け、「企業の成長戦略を財務面から支えたい」「数値分析を通じて経営判断に貢献したい」といった具体的で前向きな表現を心がけましょう。
まとめ:今すぐ始められるアクション
※経理経験は財務職において大きな強みになります。決算書作成の経験により財務諸表の構造を深く理解していること、数値の正確性への意識が高いこと、会計基準への理解があることなど、財務分析の基盤として活用できます。
そのため、経理から財務へのキャリアチェンジは、適切な準備と戦略的なアプローチによって十分実現可能です。財務職は企業の成長戦略を支える重要な役割であり、経理で培った数値感覚や会計知識は大きな強みとなります。
重要なのは、財務職の本質を理解し、必要なスキルを計画的に身につけることです。経理の延長ではなく、戦略立案や経営判断への参画という財務本来の役割を意識して準備を進めましょう。
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